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希望の果てにあるものは

第9章 日記


「……行こう」


動かない死体と壊れた扉を見て言う。
ここにいる意味はなくなった。
健斗君だって死体がある部屋になんていたくないだろう。
なるべく緑色の血や形容しがたい色の肉片を踏まないように部屋を出る。
後ろで「うわあっ!」と声がした。たぶん、踏んでしまったのだろう。


「あの、どこへ行くの?」

「んー……まあ今まで通り出口探しながら適当に歩くよ」


ここから出る。最初から目的なんてこれだけだ。

……本音を言うと、もう一度津山さんとシロさんに会いたい。
だがこの建物は意外と拾い。再会はあまり期待しない方がいいだろう。

襲いかかってくる【Failure】を倒しながら歩く。
あまりの多さにこいつらは無限にいるのではないかと思ってしまった。
これだけの数の人間が、あのイカれた実験の犠牲になったのだ。
不老不死になればどういうことになるのかなんて簡単に想像できる。
周りの人間が老いていくのに自分だけは何も変わらない。
怪しまれるのは当然。化け物、なんて呼ばれるかもしれない。
きっと普通に生活することはできなくなる。親しかった友人や大切な家族も老いない自分を気味悪がって離れていくかもしれないというのに。


(……不老不死になったことを後悔して、生きることに疲れて死にたいと思っても自殺することはできず。ただただ生き続ける)


そんな人生に、なんの価値があるというのだろう。
そんな体になって、何を得られるというのだろう。


「ねえ、蒼ちゃん」

「え……あ、何?」

「どうしたの? ぼーっとしてたけど……。呼んでも返事がないし……」

「え、っと……いや、その……。ごめん、なんでもない」


言い訳が思いつかず、結局誤魔化してしまった。
心配そうに私を見る健斗君に罪悪感を感じる。
思いきって全てを話してしまったら、楽になれるのだろうか。


(……無理だ)


自分でも真実を知ったことをこれだけ後悔しているのだ。
健斗君には耐えられない。耐えられたとしても、重荷になってしまう。
ようやく【Failure】を見ることに慣れ、自分の体に訪れた変化を忘れようとしている健斗君を、これ以上苦しませたくなかった。

ポケットに入った日記を布越しに撫で、小さくため息をついた。

 
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