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希望の果てにあるものは

第1章 序章


目覚めは最悪だった。
冷たいコンクリートに横たえられていた私の体。
夏には丁度いいのかもしれないが、あいにくと今の季節は冬だ。
つまり何が言いたいかというと、私をここに寝かせたやつを殴りたい。


「寒っ……。ああもう、なんなんだ……」


私は何者かに誘拐されたらしい。
覚えているのは、殴られた腹の痛みと無表情で私を見下ろす男の顔。
思い出すだけで腹が立つ。あの野郎、次に会ったら覚えてろよ。
男への恨みの言葉を脳内で吐き出しながら立ち上がる。
冷たい床に、目の前には漫画やテレビなんかで見かけたことのある鉄格子。
ここは、牢屋なのだろうか。ということは、私、警察に捕まった……?


(いやいや待て待て。私なにも悪いことしてないしむしろ被害者!)


私が牢屋に突っ込まれる理由がない。
少なくとも警察に捕まるようなことをした覚えはない。
まあ今まで悪いことを一度もやったことがないとは言わないが……。


「あの! 誰かいませんか!」


ここが牢屋なら看守がいるはず。
そう思って呼んだのだが、返事はない。物音もしない。
獄中とはいえ犯罪者を放っておいていいのか看守。私は違うけど。

外の様子を見ようと鉄格子に手をかける。
すると、手にぬるっとした気持ちの悪いなにかが触れた。
慌てて手を離すと、手にはスライムのような緑の液体がついていた。


「ぎゃあっ!!」


短い悲鳴をあげて壁に手をこすりつける。
さすがに自分の服でこんな気持ち悪いものを拭き取りたくなかった。
ごしごしと手が赤くなるまで壁に手をこすりつけると、手が壁の汚れで真っ黒になってしまったが、その汚れのおかげで緑の液体は取れたようだ。
なんで鉄格子にあんなものがついているんだ。
あの感触を思い出すと鳥肌が立つ。もう思い出すのはやめよう。

私が悲鳴をあげても誰も来なかった。
つまり私の声が聞こえる範囲に人はいないということだ。
誘拐されたあげくに牢屋にひとりぼっちだなんて、最悪にもほどがある。

とりあえず、外に出られるかためしてみることにした。
幸いにも扉に鍵はかかってないらしい。
手で触れるのは絶対に嫌なので、私は扉を足で思いっきり蹴り飛ばした。
強く蹴りすぎたのか、バキッと音をたてて蝶番が外れ、扉は壊れた。

……私はきっと悪くない。

 
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