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希望の果てにあるものは

第16章 崩壊


【シロ視点】


透も蒼もおかしくなった。
悲痛な声をあげる蒼の体を抱えて走る。
三人も抱えると苦しいけど、僕が頑張らないと。
蒼はずっと僕を守ってくれたから、今度は僕が守ってあげるんだ。

偶然見つけた部屋の中に三人を寝かせる。


「健斗……真琴……」


わかってる。
健斗と真琴も、いずれ透と同じようになってしまうってこと。


全て、思い出したから。


僕の名前は水原悠。
この研究施設で……被験者への投薬を担当していた。

僕は、誰よりも死を恐れる“彼女”が怖かった。
逆らえば殺されると思って、ずっと“彼女”の言いなりになっていた。
実際、“彼女”が人間を実験台にしようと提案し、それに反対した研究員たちは全員薬の実験台にされてしまったのだから。

僕は大勢の人間に投薬してきた。
何十万回投薬しても、“彼女”のように罪悪感を忘れられなかった。
投薬するたびに謝罪した。罪の意識にさいなまれた。

ある日、“彼女”が言った。
『水原君。貴方に投薬してもいいかな?』と。
きっと“彼女”は僕が断っても無理矢理投薬することだろう。
だから僕は『わかりました』と答えた。
ずっと“彼女”の隣で働いてきた僕に、“彼女”はためらうことなく投薬した。

投薬後も僕は働き続けた。
髪が脱色し、僕という人間を構成する記憶と自我が薄れ続けても働いた。
何かしていないと、恐怖で狂ってしまいそうだったから。
僕の意識は、520127……真琴に投薬したところで、途切れている。

結局“彼女”は僕のことも実験台としてしか見ていなかったんだ。
何年も一緒に同じ場所で働いていたのに。
きっと“彼女”は根本的な何かが狂っているのだろう。
僕はそんな“彼女”のことを哀れだと思った。


僕の罪は何をしても許されるものではない。
だけど、それでも、僕が人生を狂わせてしまった人たちを助けたい。
蒼はもちろん、健斗も、真琴も……透も、助けたかった。


助ける方法なんてないって、わかっているけど。

それでも、僕は……

 
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