第7章 ここにいる理由①(黒尾&孤爪)
都心のとある居酒屋。
新しくてキレイで、おしゃれ。食事もお酒もおいしい。
でも少し高いため学生は来ず、落ち着いた雰囲気が人気のお店だ。
「黒尾、お前合コン今月何回目だよ。」
「数えてねえっす。」
黒尾は通された個室を見回しながら、上着を脱ぐ。
「はは、大変だねえ。でもお前の探してくる店外れないし、女子受けもいいし助かるよ。
いつもありがとな。」
先輩はそう言って黒尾の肩をポンっと叩いた。「っす」と短く返事をして、彼は腰を下ろす。
「今日は5対5?ちょっと多いな。」
「○○ファイナンスだろ?うちと取引あったっけ?」
「まあ、かわいい子くればなんでもいいけどなー。」
まだ女子が現れない店で、男たちはリラックスして話す。
「黒尾、就職して何年目だっけ?」
隣に座った先輩に声を掛けられて、黒尾は答える。
「もう6年たちますね。」
「そうかー。お前何でもできるからそろそろ昇進かもな。」
「どうっすかね……。」
「俺より上に行ってもたまに遊んでくれよー。」
冗談ぽく笑う彼に、黒尾は笑い返して、机の端の灰皿に手を伸ばす。
「太田さんには入社当時からお世話になってるんですから、
そんなこと言わないでくださいよ。」
「気使うなよってこと。黒尾がこんなに立派になってくれて俺は嬉しいからさ。」
「いい先輩に恵まれたおかげですよ。」
「ほんと、お前って口がうまいよなあ。」
黒尾はタバコに火を付けて、ゆっくりと肺を煙で満たした。