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【黒子のバスケ】トリップしたけど…え?《3》

第10章 前に進んで




「もしオレが忘れたら、オレに名前の話をしてくれ。あと…もし名前が戻ってきて記憶を戻そうとしたら…支えてやってくれ、アイツを」


「…分かり、ました」


「頼んだよ」



そう言った彼は踵を返し、コートから出ようと歩き始めた。が、それを桃井さんが赤司君に「待って!」と呼び止めた




「赤司君は名前ちゃんの事、忘れちゃっていいの?!」


「…いいわけないだろう」


「なら…何で忘れる前提で…っ、名前ちゃんから離れようとするの!?」



その問いに赤司君はこちらに背を向けたまま「忘れなくて済むなら、忘れたくないさ」と俯きながら言った

彼の様子はやはり落ち着いていて、普段との変わらなさを見せた




「でも名前にとって前に進む事が忘れることなら…そうするしかないだろう」


「…名前ちゃんを捨てる、ってこと?」



彼女の問いに赤司君は少しの間答えず、黙り込んでいた。だけどそれから「何言ってるんだ桃井」とこちらを振り向いた




「オレには名前以上の大切な人が、見つかる気がしないよ」


「赤司、君」



そう涙を流しながら笑った彼の笑みはいつも以上に美しく、儚くて、名前さんと同じように消えていくのではないかと不安になった

彼を見ていると、そのまま一歩コートから足を出し、反対側の足も外へ出した

次の瞬間、彼はつっ立ったまま涙をこぼし、ミサンガを握り締めていた




「…黒子、何でオレは…泣いているんだい?」


「…大切な人を、失ったからですよ」


「大切な、人?」


「…これからみんなでマジバに行って、話しましょう」



そう言って歩みだすついでに彼の手のひらにあるミサンガを見ると、もう鈴は鳴っていなかった

赤司君が手を揺らしているのにならない鈴は彼女からのさよならの意味のようで、目頭が熱くなった

そんなボクの隣にいる桃井さんは、ずっとあれから涙を流し続けていた




「…空が、綺麗ですね」



見上げると憎いほどに空が彼女のようなオレンジ色に澄み渡っていて、上を向いたボクの頬には涙が伝い、地面に落ちた

彼女がいなくなった世界は多少の違和感を残していたが、いつもと何も変わらず回っていた


               -Fin-
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