第4章 "雪螢"
千里side
「簡単に語ることなど出来ません。」
何故に貴様は戦う?
目の前の男にそう問われ、千里の答えはソレだった。簡単に語れるほど、覚悟が軽いわけじゃない。
思い出すだけで、吐き気を催す、あの過去には千里の憎しみがつまっている。
「ただひとつ、言えることは。」
千里は鋭く瞳を閃かせ、目の前の男を睨んだ。
「私はある人に安心して眠ってもらうために、宗に恩を返すために戦います。」
隣にいる宗が微かに動揺したのが見えたが、構わず言葉を続けた。
「そのために命が散ったとしても本望です。」
泣いて、強がって、素直に甘えられなくて。
気がついたら何も残っていなかった。
何も守れなかった。
血生臭い匂いが千鶴から発せられているのが、現実だと理解したあの瞬間から。
全てが憎い。
けれど、弱いから全ては殺せない。
強くなりたい。
けど、どうしたら強くなれるか分からない。
その時だった。
彼が現れてくれたのは。
「もうわかったでしょう。彼女は真選組と仲間ではないことは。」
同じように傷つき、同じように恨み、だからといって人殺しを正義だとは思わない。
国を変えようなど大層な考えを、復讐の片手間に行うといってのけた彼。
「話を戻しましょう。同盟を組んでいただけませんか、"狂乱の貴公子"様。」
宗は目の前の長い髪の男に向かって堂々と言葉を紡ぐ。
今日は勝負の日だ。
これで千里達の進退が決まると言っても過言ではない。
武器の輸入、それは自分たちに足りない、一番の大きな事柄だった。
目の前の男は一派を作り上げており、穏健派でもある。うってつけの同盟相手だったのだ。
その相手はため息をはきながら、再度問う。
「たった二人でどう戦うと言うのだ。」
「人数は関係ありません。俺達も単独行動を取りたい、だから必要最低限の、かつ目的が同じ二人だけで十分。それに貴方達に必要なのは人数でも目的でもない。最終地点ではありませんか?」
俺達は幕府の重臣を殺す。
それは貴方達にとってプラスなはずです。
宗は自信あり気に、胸を張りながら言う。
千里も同様だったため、ツンと顎をそらしながら、相手を見た。
白夜叉と共に戦った、幕府に恐れられた伝説の攘夷志士______。
"狂乱の貴公子"こと桂小太郎を。