第14章 【幕間Ⅱ】雪螢と雨龍の会話
ある夜。
この部屋の主人である二人の男と女が部屋で寝静まり、人の気配がなくなる頃。
ある異質なものが居間でゆらりゆらりと動き始めていた。
『雨龍。』
凛とした声で刀に触れるのは空気に溶けそうなほど儚い体をした透けた女。
『話があるの起きて。無視しないで。』
切なそうに目を細め、潤んだ瞳で雨龍が宿っているであろう刀を強く触る。
窓から溢れる暖かな光が部屋を照らすが、月明かりが彼女に影を作らせることはない。
何故なら彼女はヒトではないから。
そしてまた彼も_____……。
『相変わらずの夜行性……貴方はいつ寝ているんですか。』
すぅ、と光を纏って現れたのは少年。
落ち着いた幼い声に秘められているのは神秘さ。
『それ、イヤなのだけれど。』
透明な瞳をもつ女は髪を靡かせながら少年を指差し、嫌そうに顔をしかめた。
雨龍は一瞬きょとんとしたあと『あぁ。』と可笑しそうに笑う。
そして光の粒子に少年は包まれた。
二人が見えない窓の外の野良猫が急に現れた光に驚いたように背をびくっと跳ねさせ、逃げていく。
対して彼女は微動だにせず、その様子を冷めた目で見ていた。
少しずつ霧が晴れるように光が薄く、そして散らばっていく。
『これでいいですか?』
『えぇ……。』
そこに立っていたのは先程とは全く違う容姿をした青年。真っ白な長い髪が一つに結われ、色っぽいつり目が光る。
『いつも幼子の格好をしているのは何故?』
『どうしてだと思います?』
『雨龍が"しょた"、だからかしら?』
『それ意味わかってますか?宗との会話をきいていたんですね?』
盗み聞きは良くないですよ。
くすり、と雨龍と呼ばれた"青年"は愛しそうに女の頭を撫でた。
彼女は美しすぎる顔を今にも舌打ちしそうな勢いでしかめるとパシッと乾いた音をたてて彼の手を払いのける。
彼は悲しそうに眉を下げたあと、そこに適当に座った。何でも見透かしそうな瞳で彼女の行動を促し、彼女もそれに答えるように向かい合わせに座る。
『話とは?』
そして雨龍の凛としたピアノのような声がその場に響いた。
女は肩をすくめたあと、何度か唇を動かし、少しして意を決したように言葉を紡ぐ。
『____……もう、消えたかもしれない。』