第8章 紅葉
紅や黄色や橙色で彩られた樹々の葉には感嘆の息を吐く。
風に揺られて落ちてくる葉をそっと掌に乗せると「綺麗だね。」と嬉しそうに笑った。
瞳をキラキラ輝かせながら眺める表情は、初めてのモノに興味を示す子供みてぇだ。
そんな所もコイツの魅力ではあるが、ちょっとそそっかしいコイツは目が離せねぇ。
「きゃっ!!」
落ち葉に足をとられたせいで滑って傾きつつあるコイツの身体を抱き留める。
「あ…っぶねぇ。ざけんな、オレがドキっとするだろうが。」
「ごめんごめん。」
悪びれる様子も無くケロッとした顔で笑う。
オレの腕をすり抜けて前に進み始めたの手を握る。
「どうしたの?大輝。」
「どうしたの?じゃねぇーよ。手ぇ繋いでねぇとまたこけんだろ。」
「ありがとう。」とは嬉しそうに猫の様に腕にすり寄ってくる。
ザクッ…ザクッ…
しんと静かなこの場所にオレ達の落ち葉を踏む足音だけが響いてる。
「ねぇ、大輝。私は、こういう時間好き。二人で過ごす時間。きっと時間の速さは変わらない。だけど、ゆっくり流れているようで気持ちがすっごく穏やかになる。」
「アン?それは遠回しに催促してんのか?そんなんじゃ伝わんねぇーぞ。」
オレの言っている事を理解しているのか、いないのか。
は隣でクスクスと笑うだけ。
気付くと青かった空はオレンジ色に染まっていた。
「、遅くなるからそろそろ帰るぞ。」
「うん。」
来た時と同じように、は樹々の葉を眺めては跳ねるようにして歩いて行く。
その姿がまるでウサギのようだ。
「バ〜カ。また滑っても知らねぇからな。」
「大丈夫。大輝が居るから!」
コイツのこう言うトコすっげぇ可愛いんだよな。
バスを待つ間、そして今。
ずっと繋がれたままの右手。
急に静かになったと思ったら、右肩にトン…と重みを感じた。
「?」
「ん…。」
はしゃぎ過ぎて眠くなったらしいはオレの隣でなんとも無防備な寝顔を晒してる。
「?」
「ん?」
「襲うぞコラ。」
「ん〜。」
何時もなら顔を真っ赤にして抗議してくるであろう台詞にも反応はない。
「可愛い顔してんじゃねぇよ。」
隣で気持ちよさそうに眠るの額にオレはそっとキスをした。