第10章 テスト
外はまだ雨の気配。
気怠い身体をベッドに投げ出すと、黄瀬は情事で乱れた前髪を満足そうにかきあげた。
「勉強は嫌いだけど、こんなご褒美があるなら毎週テストでもいいっスね」
幸い、彼女に怒る気力は残っていないようだった。
(ま、あんなにシちゃったから当たり前、か……)
欲求不満を満たすつもりが、いつの間にか彼女をイカせることだけを考えていたなんて、カッコ悪くて言えそうにないが。
『やぁ、も……駄目、これ以上されたら、ン、あぁっ』
『ハハ、また?そんなにオレのコレ、気持ち……ハッ、いーんスか?』
『待って……涼、太っ、んあ、あああぁ……っ!』
声を嗄らしながら何度も絶頂を迎える姿を思い出しただけで、落ち着きをなくす下半身をなだめながら、自分の腕を枕にして、クタリと頭を預ける身体をこれ幸いと、胸の奥深く抱きこむ。
布団の中、触れ合う肌と肌が何よりのご褒美だ。
「何が……ご褒美ですか。それは試験が終わったらの話、でしょ」
「え?じゃ、テスト終わったらまたごほーびが……」
「ありません」
「ヒドっ!」
ピシャリと言われ、黄瀬はがくりと肩を落としてみせた。
分かってない。
どれほど彼女のことを想っているのか、どれほど彼女のことを欲しているのかを。
「も〜、青少年の性欲なめたらダメっスよ。オレ的には毎日でもエッチしたいのに」
「ま、毎日……?」
「そーそー。毎日っスよ」
そういうものなのか……と目を白黒させている恋人の額に、唇を寄せて軽くキス。
「オレの本気、見たい?」
「いえ。丁重にお断りさせていただきます」
「黒子っちみたいなこと言わないの!」
「黒子さん?きゃっ……やめ、っ」
脇腹をくすぐり、汗ばむ肌をタッピングする指先が求めるのは、まさかの延長戦。
「ね、結……もっかい」
「だ、駄目ですよ。勉強、しなくちゃ」
「えぇー!?まだイチャイチャが全然足りてないのに!あと最低三回は……」
「怒りますよ」
「怒った顔もそそるっス」
「むぅ……」
頬を膨らませる恋人の肩に浮かぶ歯型は、自分の物だという意思表示と独占欲。
(出来るだけ長く残ったらいいな……オレのシルシ)
黄瀬はそんなことを秘かに願いながら、うっすらと朱に染まる肌に、慈しむようなキスを落とした。
end