第44章 フェスティバル
目を閉じていてもたどり着けそうなほど何度も通った道を、軽快に走り抜ける黄瀬のマントが翻るたび、黄色い声援が次々と上がる。
目立ちすぎる衣装を着替えた方がいいことは分かっていたが、今は一分一秒が惜しかった。
「結っ!」
目と鼻の先に見えるバスケ部専用の体育館。
到着するまで待てずに、愛しい名を大声で叫ぶ。
夏は、その陰で涼を運んでくれる大きな木の幹から、呼びかけに応えるように顔を覗かせる恋人の姿を目にしただけで、今でも胸がこんなに高鳴るなんて、自分でも信じられない。
「あー……、もうなんなんだよ」
くしゃりと顔を歪めた人気モデルは、ただの恋する高校生へと大変身。
黄瀬は、気合いで頬の緩みを元に戻すと「お待たせ」と完璧な笑顔で彼女の前に立った。
「ど、どうも……コンニチハ」
「ぷ。なんスか、その反応」
どこかぎこちない様子を見せる結の姿に、黄瀬はうっすらと目を細めた。
「……かわい」と思わず声が出てしまうほど胸に刺さる彼女の装いは、七分袖のフレアーワンピース。
濃紺のきちんとした印象を与えるシンプルなデザインながらも、腰のリボンがフェミニンさを忘れずに演出。
(これは……色々とヤバい、かも)
ファッションにはあまり関心のなさそうな恋人が、自分と会う時には精一杯オシャレしてくれることが何よりも嬉しくて、黄瀬の顔面は努力もむなしく完全崩壊。
ここが学校であることも忘れて、つい抱きしめた身体は、何の抵抗も見せずにスッポリと腕の中に収まった。
「……アレ?おとなしいっスね。いつもなら爪たてて暴れんのに」
「だ、だって……」
猫じゃありませんという反論すらなく、逆に身体をすり寄せてくる結に、黄瀬は首を小さく傾げた。