第41章 クロスオーバー
『今日の乙女座は十位。
ラッキーアイテムは眼鏡
なのだよ』
違う道を歩むようになってからも、一年に一度、この日には必ず届く律儀なメール。
自分の星座は口にするのもイヤだと何度言っても、「星の巡りを粗末にするとバチが当たるのだよ」と今日の運性を信じるストイックさは今も変わらない。
『青峰っち!誕生日おめでと!』とメールすら軽いモデルもしかり。
『青峰君。お誕生日おめでとうございます』とテンプレートなメールを送る、影のうすい男もしかり。
信じるのは血液型でも星占いでも仲間との絆でもなく、ただ己の力だけ……そう思っていた頃の自分の愚かさを、青峰は奥歯でキツく噛みしめた。
頑なに口を一文字に引き結ぶ姿に、青峰は口角をわずかに上げた。
「一年か?ちいせぇな」
カチャリと装着した眼鏡のレンズ越しの瞳は、だが変わることなく輝いて見えた。
「ち、小さいって失礼な。青峰先輩が大きすぎるだけじゃないですか。私はこれから成長期を迎えて、まだまだ伸びる……予定です」
「ハッ。ま、せいぜい頑張れよ」
「痛っ」
指で額をピンと弾き、「悪かったな」と小さく言葉を残すと、青峰は背を向けて歩き出した。
「奇跡はあると思った方が楽しい……か。変なヤツだな、アイツ」
口許に笑いを浮かべながら戻ってきた青峰に、桃井はその目をきらりと光らせた。
「なんかイイ事あった?大ちゃん」
「別に」
出された課題は、今ちょうど折り返し。
あと半分もあると落胆するのか、あと半分で終わると奮起するのか。
そして、奇跡は果たして存在するのか否か。
見方を少し変えるだけで、景色は良くも悪くも変わるのかもしれない。
(あ?そーいえば、アイツなんで俺の名前……)
あの場所に戻っても、もうそこに彼女の姿はない──そんな気がした。
「ハッ。何考えてんだ、俺は……」
不思議と軽くなった気持ちと、まだかすかに温もりを残す手をゆっくり握りしめると、青峰は課題に取り掛かるためペンを拾い上げた。
2016.8.31
Happy birthday to D.Aomine.