第40章 ストーリー
こんなにも弱っている姿を見るのは初めてだった。
子供のようにすがりつくカラダを、結はふわりと抱きしめた。
愛しいヒトを守りたい
傷ついたそのココロを癒したい
それは理屈ではなく、本能だった。
「……涼太」
結は、まだ泣きじゃくる恋人の頬に触れると、ゆっくりと顔を覗きこんだ。
暗闇に少し慣れた目で、鼻の頭にチュッと音を立ててキスを落とす。
「いい夢が見られるおまじない、しましょうか?」
「……おまじ、ない?それ、どっかで聞いたフレーズ……っスね」
「パクってみました」
「認めんの、早すぎ……」と力なく笑う唇をふさぐように、結は自分の唇を押しあてた。
少ししょっぱいキスに、胸がツキンと痛む。
涙で濡れる唇のカタチをなぞるように指先を滑らせると、反応の薄かった唇がその先をネダるように小さく開く。
「これはおまじない……ですからね」
隙間を埋めるようにもう一度唇を重ね、深く潜りこむ。
触れ合う舌先を絡め、唇を吸い、漏れる吐息と溢れる唾液を交換するようなくちづけは、化学反応を起こして熱を帯びていく。
「……結、も……ダメだって……ば」
言葉ほどに抵抗を見せない黄瀬の身体の上に、結はゆっくりと覆い被さった。
ベッドに散る髪に指を絡め、ピアスが光る耳を口に含む。
ゴクリと動く喉仏に向かって唇を移動させ、太い首に這わせた舌で肌を味わう。
「ヤバい、って……マジ」と首の後ろを撫でる指に誘われるまま、硬く引き締まった胸板に指を滑らせると、小さく漏れる声に身体の奥がジクリと疼く。
「んな、ことされたら……オレ、限界……っスわ」
「我慢なんてしないで……。欲しい……私も、涼太が……」
いつもなら羞恥でしかない濃厚な愛撫も、磁石のように引き合う心をつなごうとするごく自然な行為でしかなく。
お互いの服を脱がせ、肌を貪り、重なり合う身体がシーツの波間を淫らに漂う。
ひんやりする空気をかきまぜるように、白い足がビクビクと跳ねた。
「く、結……っ」
「ん、ン……あぁ……っ!」
それは、欠けたピースがぴたりとはまった時の快感に似ていた。
身体の奥まで届く硬い切っ先にトロける粘膜を擦られて、結は波のように揺れる背中にしがみついた。