第27章 ドリーム
「ごめんなさい。私、やっぱり……さんが」
「結、ナニ言って……ウソ、だよね?」
「さよなら……」
小さくなる背中を追いかける足は、まるで鉛のように重い。
夢だ。
これは夢に違いない……早く、早く目を覚まさなきゃ。
『──線をご利用くださいまして、誠にありがとうございます』
「……わっ!」
聞き慣れた電車のアナウンスにパチリと目を開けた黄瀬は、心配そうに覗きこんでくる瞳に言葉をなくした。
これは夢か現実か。
「大丈夫ですか?」
「え……ウ、ン」
瞼をこすった指先に濡れたような感覚。
「嫌な夢でも見ました?」
頭を撫でる優しい手にホッと息を吐いて、小さな肩に頭を預ける。
「……ねぇ、結。ずっとオレの隣にいてくれるよね?」
何言ってるんですか、と照れたように怒る声で確かめさせて
キミはオレだけのものだって
「当たり前じゃないですか。こんなに……好き、なのに」
つむじをくすぐる予想外の告白に、座席から滑り落ちる身体をつつむ笑い声は、いつもと同じやわらかなトーン。
あぁ、ホント好き。
「今日はエイプリルフールだからとか、そんなオチなしっスよ」
「う、嘘なんかじゃありません」
ぷぅと膨れる頬を指で突いて、座席の間でひっそりと繋いだ手に力を込める。
そっと触れた左手の薬指にひとつの決意を固めると、黄瀬は幸せな夢の中へと再び微睡んでいった。
end