第25章 ヒート
「水原センパイ。アイツは……黄瀬はどうしようもないバカですけど、水原のことは任せても大丈夫です」
「笠松……」
笠松の黒い瞳に迷いなく射貫かれて、翔は小さく息をのんだ。
いつの間にこんな威厳を身につけたのだろう。いや、これが海常の4番を背負うということなのか。
「同感です。黄瀬はチャラチャラしてるように見えて、結ちゃんのこと本当に大切にしています。それは俺達が保証するんで」
そう援護射撃する森山はともかく、笠松に妹への気持ちが全くなかったとはとても思えない。
(まったく、参るよ……)
笠松の潔さと、彼らにここまで言わせる黄瀬涼太という存在を再確認させられて、翔は苦々しく笑った。
「森山、それフォローのつもりか?」
「あ、ソレ言った後で思いました」
「森山も黄瀬に負けず劣らず馬鹿だからな」
「笠松も結構ヒドいこと言ってた気がするがな」
三人で顔を見合わせて笑った後、翔は「分かった」と力強く頷いた。
「正直、黄瀬のことはまだよく知らねーけど、お前達のことは信じてるからな。今日は海常のバスケをたっぷり見せてもらうことにするか」
どこか照れくさそうに、だがホッとしたような笑顔を浮かべる後輩の背中を軽く叩くと、翔は小さな肩を抱いて体育館の隅へと移動した。
耳に心地よく響くボールの音と、綺麗に手入れされている慣れ親しんだコートが目にまぶしい。
(懐かしい……てか、みんなやっぱ若いな)
かくいう彼もまた20代前半だが。
コートを駆け抜ける後輩達を、目を細めて見守る頼もしい姿を、隣からやわらかい眼差しが包みこむ。
「なんかよく分からなかったけど……」
「ん?」
クイと袖を引っ張られて、恋人の方へ身を屈めた耳元に「カッコよかったよ」と囁かれて、ぐらりと揺らぐ身体を翔は必死で立て直した。
end