第23章 ガーディアン
小春日和の日曜日。
「笠松センパイ!森山センパイも!どーしたんスか?!今日来るなんて聞いてないっスよ!」
海常の体育館に現れた懐かしい姿に、黄瀬はその顔を少年のように輝かせた。
卒業して一年。
私服姿にもかかわらず、この体育館に何の違和感もなく溶け込んでしまうのは、二人の残した足跡の大きさに他ならない。
「よぉ、調子はどーだ?」
「笠松さん、森山さん!お久しぶりです!」
パタパタと走りよってくる小さな姿に、森山はその涼しげな目をゆったりと細めた。
「結ちゃん、久しぶり。相変わらず天使のように可愛らしい。黄瀬なんかやめて俺と……」
「ちょ、森山センパイ!結はオレのなんだから、口説くのやめ……イデデデっ!」
「何こっぱずかしいこと言ってんだよ!お前は!」
「こんなこと言ってるが、笠松はお前が可愛くて仕方ないのさ」
「森山!気持ち悪いこと言うと、オマエもシバくぞ!」
時間が巻き戻ったような錯覚。
少し大人びてみえる私服姿に、淋しさを覚えたのは一瞬だった。
「あれ、誰?」
「黄瀬センパイがセンパイって言ってるから、多分OBなんだろうけど」
「オレ、月バスで見たことあるぞ。確か……」
明らかな大先輩の登場にざわつく空気を感じたのか、「ちょっと監督に挨拶行ってくる。練習の邪魔して悪かったな。森山、お前も……」と振り向いた笠松の隣に、森山の姿はすでになかった。
「そこの美しいお嬢さん、良かったら俺と――痛っ!笠松!俺はこちらのお嬢さんと……」
日曜日だというのに、黄瀬目当てで来ている女の子達の前から、耳を引っ張られて連行される長身を、結は黄瀬と共に笑顔で見送った。
チラリと隣を見上げた視線の先には、リラックスした表情を浮かべる端整な顔。
(良かった。おふたりに来てもらって正解、かな)
「結、何ニヤニヤしてんの?」
「ニヤニヤなんてしてません。黄瀬さんじゃあるまいし」
「ヒドッ!」
主将を引き継いでから、彼なりに気を張っていたのだろう。
一月に熱を出したことも、精神的な負担が原因ではないと完全には言い切れない。
(気をつけなくちゃ……勿論、みんなの事も)
心の中でひそかに気合いを入れると、結は空になったボトルを抱えて、体育館の外に出た。