第17章 ハングリー?
肩で大きく息をしながら、額に浮かぶ汗を腕で拭うと、黄瀬は自分の下でくたりと横たわる結の頬を優しくなでた。
「ゴメン、ちょっと待ってて。すぐ済ませるから」
「ん……」
情事の後のまとわりつくような空気は、幸いにも広い空間のおかげで、あっという間に拡散されていった。
思いがけず訪れた至福の時に、満足した気怠い身体をのろのろと起こす。
黄瀬は手早く後始末と着替えを済ませ、カバンから新しいタオルを引っ張りだすと、ゆっくりと上体を起こそうとする恋人に差し出した。
「結、背中痛くない?カラダ拭こっか、起きられそっスか?」
「大丈夫、です。じ、自分でします……から」
恥ずかしげにタオルを受け取り、外れた背中のホックに手を回す仕草が妙に色っぽい。
「ね、それ写真撮っても……」と思わず本音を漏らした黄瀬は、結に軽く睨まれて、ハハと乾いた笑いをこぼした。
(いいオカズになるかと思ったのに……残念)
「心の声、漏れてますよ」
「おっと」
下心を見抜かれてペロっと舌を出すと、結は小さな溜め息とともに、かすかに微笑んだ。
「もうホントに……」
呆れたような声は、彼に対するものではなく、自分に向けたもの。
(どうして流されてしまったんだろ。ううん、本当に欲していたのは……)
頬が燃えるように熱い。
散らかった服を身に纏い、結はふらつく身体でなんとか立ち上がった。
「りょー、た」
「着替え終わった?コレ片付けたら家まで送ってくから、ちょっと待ってて」
結は、カバンに荷物を押し込んでいる黄瀬に近づくと、大きな背中に額をそっと押し当てた。
「ん、何スか?あ……もしかしてまだ足りない、とか?」
クスリと笑う肩に顎を乗せると、ピアス不在の左耳に唇を寄せて囁く。
これくらいの反撃は許されるはずだ。
「……うん。足りない」
「ちょ!ここでデレ発動とかマジ勘弁して!」
振り返った黄瀬にギュウギュウと抱きしめられながら、結は自分だけの温もりに頬をすりよせた。
「あ!次は部室とか体育倉庫とかどーっスか?シャワー室もいいかも……いってぇ!!」
帰り道、黄瀬の悲鳴が静かな住宅街にむなしく響き渡った。
end