第15章 リベンジ
「じゃ、じゃあ……先にあがりますね」
「ヨロヨロじゃないスか?オレが抱っこして……わっ!」
シャワーを顔面にかけられた黄瀬が怯んだ隙に、結はよろけながらバスルームを飛び出した。
力の入らない身体の奥深く、もっともっとと欲しがる熱が頭の芯をジリジリと焦がす。
「……っ」
はじめて知る疼きをもて余したまま、結はバスタオルを巻くと自分の部屋に駆け込んだ。
「ったく、酷い目にあったぜ」
濡れた髪をかきあげながら帰宅した水原翔は、玄関先に置かれた男物の下駄に目を留めて、眉間に深いシワを刻んだ。
「おい!結!帰ってんのか!?」
問いかけに返事はなく、かすかに聞こえるのは浴室からの水音だけ。
「アイツ、絞める」
ズカズカと大股で洗面所に向かうと、脱衣カゴに放り込まれているのは明らかに男物の服。
「てめぇ!大事な妹に何しやがる!」
勢いよく開けた扉の向こう、ちょうどシャワーを浴び終えた黄瀬と目が合った翔は、自分の早とちりに気づいて固まると同時に、二階からバタバタと駆け降りる足音に冷や汗を流した。
「ちょっと兄さん!ナニ覗いて……お巡りさーん!ここにも変態が!」
「っ、いや!ちょっと待てって!結……お前、黄瀬と、その、なんだ」
「雨に濡れたからシャワー貸してただけなんだけど……何を想像して」
キラリと目を光らせる妹の迫力に圧され、後ずさる足がジリリと音を立てる。
「な、何も……悪かった。アイツにも謝っといてくれ。さ、さて……俺も着替えてくっかな」
タオルを一枚手に取ると、翔は一目散に逃亡をはかった。
「ふぅ〜。ギリギリセーフだったっスね」
タオルを腰に巻いて浴室からひょっこり出てきた黄瀬は、ニヤニヤしながら結の顔を覗きこんだ。
「も、もうこんなのは無しですからねっ!」
「なかなかスリルがあってよかっ……イデデっ!」
モデルの顔を容赦なく引っ張るのは彼女だけ。
真っ赤な顔で頬を膨らませる結の手首を、黄瀬はそっと手に取った。
「今日のお礼に、今度はオレがたっぷり可愛がってあげなきゃね」
「は?」
目を白黒させる恋人の指先に「約束っスよ」と黄瀬は舌を絡めるようなキスを落とした。
end