LAUFEN ODER STERBEN(進撃:エレン夢)
第1章 LAUFEN ODER STERBEN
「お前は外で巨人と出会った時、瞬時に何をするよう教わった?」
「えっと、臨戦態勢に入ります」
「その時、お前は馬の手綱を持っているのか?」
「いいえ! 立体機動装置をいつでも使えるよう、両手には刃を持ちます!」
「そういう事だ」
「はい?」
「お前が手綱を使わずに馬を乗りこなせるのは、あの小娘の調教のおかげだ」
意外にも、リヴァイの口から出たのは弁護だった。けれど彼の一言は、エレンの目から鱗を落とす。
詳しい話しを聞けば、レイは馬の調教チームの筆頭だと言う。
馬を専門的に育てている人は壁内の中には沢山いる。しかし、対巨人用の走り馬として最適な調教が出来るかと問えば、否と答える調教師がほとんどだ。何故ならば、巨人から守られていた100年ほどの月日が、彼らの腕を衰えさせたからだ。
巨人の恐怖から解放されて以降、人と馬の関係がガラリと変わる。共に敵から逃げたり戦ったりする相棒ではなくなり、馬は農業や馬術競技などで使用する労働力に成り下がった。畑で働く馬は走る事よりも重たい農機を運ぶ為に鍛えられ、馬術競技では走る速さを重視されず、どれだけ美しいフォームでアリーナを駈けられるかを採点された。よって、調査兵団が壁外調査に使用する馬の調教師は限られる。
その中でもレイは唯一と言っても良いほど、凄腕の持ち主だった。どんな暴れ馬も従順にさせ、人間に屈服させる。それでいて、個々の馬が気の合いそうな兵士とパートナーにさせる洞察力も持ち合わせていた為、調査兵団は彼女を手放せない。特に、大型巨人の二度目の襲来により、彼女の家族は亡くなっている。
昔、レイの家系は弓を携え、馬に乗りながらの狩りを極めていた。その馬術のおかげで、今まで調査兵団は乗りやすい馬を確保できたが、彼女を失う事は馬を失うのと同じであり、巨人との戦いに負けると言う意味にもなる。だから彼女は「壁外に出ない」のではなく、「壁外を出られない」のである。他でもない、人類の勝利の為に。
事実を知ったエレンは単純にも、少女に対して尊敬の念を抱いた。今度もし会う機会があれば、労いの言葉をあげるのも悪くない。そう思うのであった。