LAUFEN ODER STERBEN(進撃:エレン夢)
第1章 LAUFEN ODER STERBEN
巨人による二度目の進撃を食らった人類。数年ぶりの襲来は、やはり初回同様、何の前触れもなく訪れた。狙われたトロスト区の兵士たちは勇敢にも戦い、多くの者も死んだが、結論から言うと人類初の勝利を納める事に成功する。その成功の裏には一体の巨人、いや、巨人の力をいつの間にか手にしていたエレン・イェーガーの働きが大きかった。
しかし残念な事に、彼の変身と行動に対して称賛の声をあげる者はいなかった。むしろ空前絶後な出来事に絶句し、恐怖におののく人々の顔ばかりが揃う。そして無情にもエレンの意志や自由は無視され、身柄は一時的に調査兵団が預かる事になった。
憲兵団に引き渡されればエレンの死は必須。生きているだけマシなのかもしれないが、命と引き換えに人体実験を余儀なくさせられると思うと、それもそれでエレンは一抹の不安を覚えた。調査兵団と共に行動する以上、彼らの行う日々の特訓にも参加し、順応しなければならない。しかも鋭い監視の目が常に付きまとっているため、エレンは二重にも三重にもストレスを感じていた。
そんな暮らしの中で唯一……と言って良いかはわからないが、わずかに一人で行動する時間があった。それは馬の世話をする時間だ。厳密には馬小屋の外に監視は付いているのだが、建物内の人間はエレンだけなのには変わりない。
石造りの馬小屋はレンガを積み立てる要領で作られており、通路、そして馬が収まる小屋自体も手狭な空間だった。どっしりと砦のように構えた建物は、外観こそ大きく立派だが、中に入ってみると動物は詰められているようだ。空気を換気する窓も少なく、非常に悪臭が発生しやすい。馬の数が多いだけに馬糞や牧草の臭いも強い。けれど、だからこそ中に入る人間はエレンだけだった。調査兵団の中では一番の新米で、特に重要な任務もないと言う事もあり、リヴァイ班の人間は馬の世話を彼に任せている。
とは言え、エレン自身も臭い環境に長くは居たくない。畜舎の隅に置いてある箒と、立ったまま馬糞を回収できる柄の長いチリトリで通路の床を掃除する。潔癖性のリヴァイ兵長に見られても文句を言われないよう、彼は丁寧に通路へと溢れた馬糞を集めた。
馬の寝床は、エレン達が馬と共に訓練している間に誰かが掃除してくれているようで、一番大変な掃除はしなくて良いと聞いている。それだけでもありがたく思い、エレンは掃除に手を抜かなかった。