第9章 ラブラドライトの叡智
誰かが遠くで泣いている。
目を開けているか閉じているかも分からなくなる程の闇に、ルヴァイドは独り佇んでいた。
──死なないで…
──ごめんね…私のせいで…
必死に名を呼んでくるのは、愛しい人の声。
「──アレス…」
手を伸ばそうにも、鎖に巻かれたかのように体が動かない。そして猛烈な寒気に襲われていた。
「俺は…死ぬのか…?」
何度か瀕死の淵に立った事はあるが、今回ばかりは死の気配がそこまで来ていることを感じ取る。
デグレアにおいて逆賊の息子となり、不遇を強いられては何度死にたいと思ったか。しかし望んだ時には訪れず、今こうしてやって来る死神のたちの悪さと言ったら。
──…ヴァ…ド…
声が掠れていく。
いや、自分の聴覚が失われていく。