第7章 クリソプレーズの囁き
「…ありがとう」
アレスは自分からルヴァイドの口元に唇を近付けると、触れるか触れないかの距離で小さく囁いた。
「…私の初めては、ルヴァイドに決めたから」
だから、心の準備が出来たら抱いてくれる?
「…光栄だな」
触れるだけのキスでルヴァイドは応える。
アレスは彼の胸元に頭を預けて、その温もりに心地良さそうに目を閉じた。
例え99人が私の事を嫌っても、1人でも私の事を分かってくれていれば生きていける。
いつかルヴァイドに言った言葉を思い出す。
私にとってその一人が、ルヴァイドだったのだ。
「愛してるわ、ルヴァイド」
「俺もだ、アレス」
大きな手の平が、髪を撫で梳く。
受け入れられた喜びと安堵感に、アレスは我が身を全て預けて眠りに落ちていく。
ルヴァイドもアレスの寝顔にそっと微笑んで、混じり合う互いの体温に意識を微睡ませていった。
しかし。
育まれた穏やかな愛に忍び寄る黒い陰が、天幕の向こうで薄気味悪く笑っていたのを、沈む月だけが見ていた──。
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