第1章 カルセドニーの導き
【第一話・出逢い】
薄日が差し込む静かな山道を、一人の女性が足音を立てずに俯きながら歩いていた。
それは女一人旅所以の警戒心で、気配を消す癖を身に付けてしまったから。
そして、地学情報処理のための鑑識眼を常に研いているから地面を見て歩く、という職業柄の癖であった。
彼女の名前は、ユメノ・アレス。
代々続く鉱物鑑定士の家系で、彼女自身も家業を継いだ。
このリィンバウムにおける鉱物鑑定士の仕事とは、召喚術を発動させるために必要なサモナイト石を生成する事である。
召喚獣を使役できる人間が多くなった昨今、アレスの鉱物鑑定士としての仕事は只今バブル期ど真ん中であり、需要に対して供給が追いついていないという状況であった。