【ハイキュー】その日まで(poco a poco3)
第9章 春が来るまえに
立花は一度だけ、その校舎を仰ぎ見た。
卒業式を終えて、教室で別れを惜しんだり、部室や体育館で思い出に浸ったりしている時間。
学校で過ごした時間が絶対的に少なかった立花は、特に惜しむ別れも浸る思いでもないまま、荷物をまとめて帰宅の途に就いたのだった。
3月の宮城はまだ春は遠く、空気も冷たい。
肩からずり落ちそうになっていたマフラーを結び直す。
(静か……。)
校内はおしゃべりであふれていたのに、外は驚くほど静まり返っている。
ポケットからスマホを取り出す。
メッセージアプリを立ち上げて“こうちゃん”を選択する。
(先に帰るね。気にしないでゆっくりしてきて。)
すぐに既読がついたのを確認して、画面を消す。
(こうちゃんは、私と違ってたくさんの仲間も思いでもある。いつも私と一緒にいてくれるけど、今日は私より優先してほしいものがある。)
そう思って、立花は何も言わずに出てきたのだ。