【ハイキュー】その日まで(poco a poco3)
第8章 素直、ときどき
人の気配がして、立花は目を覚ました。
熱のせいでぼんやりする頭を動かして、時計を見る。もう8時になろうとしている。
「え、単語テスト範囲?ちょっと待って……」
聞き覚えのある声が、部屋の外から聞こえてきた。電話で誰かと話しているようだ。
(こうちゃん……来てたの?)
ガチャ
ドアを開けて入ってきた菅原と、ベッドで横になったままの立花の目が合う。
「あー、ごめん大地。みー起きたわ。うん、テスト範囲はまたあとでメールする。うん、じゃあまた明日。」
電話を切って、ベッドの横に座り込む。
「澤村君?」
「そ。具合は?あんまし良くなさそうだな。」
額に触れる手が冷たかったのか、立花は身を捩った。
「ポカリ買って来たから、飲めよ。」
コンビニの袋からペットボトルを取り出して、キャップを開けてから渡す。
「……ありがと。」
コクコクと、小さく喉を鳴らしてポカリを飲んで、立花は再びベッドにもぐりこむ。
「うつるから。帰んなよ。」
「ん?うつしたら治るかもよ?」
「……知らない。」
にいっと笑う彼は、どうやら帰るつもりはないらしい。
「おばさん帰ってくるまではいてやるよ。」
「いいって。」
「なんか欲しいものある?ヒエピタ?」
会話が成り立っていない。
立花は、相手をするのもしんどいので布団を頭までかぶってしまう。
すると、ベッドの横に座ったのが気配で分かる。
「ここにいるから、なんかあったら言って。おばさん帰ってきたら帰るから。」
優しい声音に、ほっとする。
「……ん。」
小さく返事をして、そろそろと手だけを布団から出すと、
「甘ったれめ。」
そう言ってぎゅっと握ってくれる。
それだけのことが嬉しくて、少しだけ元気になった気がした。
一日も早く治して、また一緒に学校行こう。
卒業はもうすぐそこまで迫っている。
一緒に過ごせる時間は限られているのだから……。