第5章 Episodes櫻井:優しさの裏と表
消えたはずだった記憶
あの日、私は知った
触れられた感触も、
向けられた感情も、
すべて私の意思なんて、
気持ちなんて、関係ないって
だから彼は決して私を
外へと出す事なんてしなかった
ましてや交友関係なんてものを、
私には作らせようとしなかった
『ボクにはイズミだけなんだよ…!』
恐怖で歪んだ心は、
それが普通なんだと
思い込むようになった。
だから、あのとき、
手を握り闇から救ってくれた、
ヤスくんとカレには感謝しているんだ
「そろそろ戻らないと…」
夕方5時過ぎ、
廊下からは人の気配は消えて
みんな帰宅してしまった校舎の中
生徒会長さんが立っていた
「あ。元気みたいですね」
ポケットに両手を突っ込んで、
何とも言えない顔で
私を見た。
「ご迷惑おかけしてすみませんでした」
「別に迷惑じゃないよ
傷つけられてるやつを助けて
迷惑だと思うやつ居ないでしょうが」
そう言った生徒会長さんは、
優しく微笑んだ