第80章 再生の道へ
暗い地下洞窟の中で、微弱なゴーレムの光を背に受けながら立っていた、赤毛の青年。
彼は南のことが一人の女性として好きだと、そう伝えてきてくれた。
驚きはしたものの、彼のその想いを一度受け止めた。
きちんと答えを出すまで待っていて欲しいと我儘を言った。
そしてその我儘を受け止め、待つと彼は約束してくれたのだ。
その答えを出すまで、南はリーバーへの想いを塞き止めた。
リーバーから預かったお守りのネクタイを握り締めながら、ラビの顔が頭から離れなくなったあの時。
どんな心を持って人を"好き"だと言えるのか、よくわからなくなったから。
「………」
だから頷けなかった。
頷いたら、まだ答えを出していないラビの想いを否定してしまうことになる。
「答えを求めてる訳じゃないんだ」
「…え?」
しかしそんな南の思いを見透かしたように、リーバーは眉を下げて笑うと首を横に振った。
「俺と南は上司と部下だ。簡単に答えなんか出せないことはわかってる。…困らせたい訳じゃない」
片手で握っていた南の利き手を、両手で包み込むようにそっと握り締める。
「ただ知っていて欲しい。もうなかったことになんかしない。これは間違いなく、俺が抱えている想いだ」
真っ直ぐに向けられるリーバーの想いに、胸の奥の鼓動が速くなる。
上手い言葉も表情も思いつかなくて、ぎこちなくその場に固まるままの南をリーバーは苦笑混じりに見返した。
「そんなに畏まるな」
(って言う方が無理なんだろうけどな)
上司だと思っていた相手に好意を向けられて、平然としていろという方が無理な話。
充分にそれを理解していたから、リーバーはそっと南の手を放した。
もし想いを伝えてしまった時には、そこに続ける言葉は前々から決めていた。