第80章 再生の道へ
松葉杖には固定されていない自由に使える手らしいが、その小さな手はしっかりと包帯が巻かれ白く染められていた。
痛々しい手だ。
なのに弱い力で握り返してくるその手を見つめていると、愛しさが込み上げてくる。
(…こんなに簡単なもんだったんだな)
すっぽりと自身の手の中に収まるそれを見つめて、リーバーは気付かされた。
触れることも見ることさえ怯えていた彼女の痛ましい姿は、こんなに愛おしくも映るものだったのだ。
「…ごめんな」
もう一度、しかとその手を握り締めて謝罪する。
「は…班長は、悪くなんて───」
「違うんだ」
予想していた通りの返事を返す南の言葉を遮って、リーバーは包帯の掌から南自身へと目線を上げた。
「大事な部下として、お前を見ていてやれなくて。ごめんな」
「…ぇ…」
もう後には退けない。
真っ直ぐに東洋人独特の漆黒の瞳を見つめたまま、リーバーは僅かに肩を下げた。
深呼吸を、一つ。
「俺は、南のことが好きだ。大事な部下としてじゃなく、大事な女性(ひと)として、お前を見てる」
目線は一度も逸らされない。
静かに、けれど一言一言噛み締めるように、リーバーはその想いを告げた。
「もう、ずっと前から」