第80章 再生の道へ
「………」
一瞬、南は言葉の意味に理解が追い付かなかった。
(…"好き"?)
そんなことを言われたような気もしたが、夢なのかとも思う。
それ程までにあっさりと耳に届いた好意の言葉。
リーバーはなんと言ったのだろうか。
自分の名前を呼んで、それから"好きだ"とただそれだけ伝えてきた。
わかり切っているのに、いちいちそんな先程の出来事を回想し直す。
静かな動揺。
「……え?」
「え」
たっぷりと間を置いて、ぱちりと目を瞬きながら目の前にある顔を凝視する。
疑問符を浮かべる南に対し、リーバーもまた同じにぎこちない応えを漏らした。
「…は…班長…?」
「待て。待った。今のナシだ。忘れろ」
「え」
(えぇええ…ッ)
おずおずと顔色を伺うように距離を顔一つ分離して見れば、即座にリーバーの顔は片手で覆われ隠れてしまった。
相手の顔色はわからない。
しかしその耳が赤く染まっている所を見れば、照れているだろうことはわかる。
が、しかし。
問題はそれよりリーバーのはっきりと示した否定。
(忘れろなんて!無理ですけど!)
あそこまではっきりと好意を耳にしていて、空耳だったなんて戯言は利かない。
それ以前にこんなぎこちないリーバーの反応を目の前にして、空耳だったなんて思えない。
「は…班長…っ」
「何も聞くな。問うな。そして頼むからこっち見ないでくれ」
「む…っ」
(無理です!)
片手で顔を覆ったまま、もう一方の手を遮るように伸ばしてくる。
気付けば咄嗟に、その手を南は握っていた。
ぎしりとリーバーの動きが止まる。
「班長ッ」
再三。
今度はぴしゃりと強い声で呼べば、動きを止めたリーバーが、やがて深い溜息をついた。
顔を覆っていた手が離れる。
見えたのは、確かに仄かに色付いた肌。
しかし南の目を捕えたのは、肌よりその表情。
気まずそうに目を逸らしてくる上司のこんな顔は、早々見たことがない。
なんだか胸の鼓動が早くなったような気がした。