第80章 再生の道へ
「この言葉、南は知ってるか?」
「…いいえ。初めて聞きました」
"立派な生き方をせよ、それが最大の復讐だ"
そう唐突にリーバーが投げかけた台詞。
それは南には聞いたことのないものだった。
問い方からして、誰かの残した言葉なのだろうか。
「ユダヤ聖典に載ってる、ある一文なんだ」
別に信仰深い訳じゃないんだけどな、とリーバーはひとつ笑う。
「でも初めて見た時から、俺の中に残ってる言葉の一つなんだ。…逝っちまった者の心なんてわかんねぇが…望んで逝った奴なんてきっといない。でも俺はエクソシストじゃないから、敵討ちなんて大層なもんはできない。…ならせめて、俺には俺のできることで足掻こうってな」
「………」
「こうして俺が教団で少しはまともな生き方をしていれば、あいつらも少しは浮かばれるんじゃないかって。……まぁ、結局のところ全部俺の勝手な自己満足なんだけど」
またひとつ、砕けて笑う。
そんなリーバーの苦い笑みに、南は更に強く唇を噛み締めた。
堪らなかった。
教団の為に、コムイを支える為に、エクソシスト達を救う為に。
生きている者達の為にがむしゃらに働いている彼は、亡くなった者達の為にも身を削っているという。
堪らなく胸が締め付けられた。
充分に立派です、なんて安易なことは言えなくて。
そんな無理はしないで、なんて否定もできなくて。
強く強く唇を噛む。
「……南?」
苦い笑みを浮かべていたリーバーの表情が止まる。
薄いグレーの瞳は真っ直ぐに南を見つめたまま。
その顔が、じわりとぼやけた。