第15章 神隠し
全部消そうと思った。
南にあんな怯えた顔をさせるくらいなら、この想いも全部失くしてしまおうと。
だから笑顔を貼り付けた。
馬鹿みたいに明るく振る舞うのは、慣れてたから。
この想いを伝えて南との関係が壊れて隣にいられなくなるくらいなら、全部なかったことにしてでも南の隣にいたい。
人間って生き物は、痛みを伴っても忘れられるようにできている。
だから身を裂く経験をしても、いつか前を向いて歩いていける。
オレがいつも通りでいれば、南の中でもきっとあの出来事は薄れていく。
それを自分で望んだ。
どうせ実らないからと腹を括ってた癖に、いざ失いそうになると怖くなって背を向ける。
…オレはただの臆病者さ。
「なんだか…寂しい村だね」
「ええ。人影も疎らですし」
ザリ、と土を踏みしめる音が静かに耳に届く。
ぽつんぽつんと一定の距離で建つ民家。
其処から感じる視線は、決して良い気配じゃなかった。
アレンも感じてるんだろう、さり気なくその体は南の傍に寄る。
何か起きた時に瞬時に対応できる距離で。
…わかってんだけどさ。
この面子で一番に守るべきは非戦闘員の南で、アレンがそれを優先するってことも。
わかってんだけど。
はしゃぐ南を可愛いと言ったり、その体に触れて抱きかかえたり。
いちいちアレンの言動が気になってしまう自分がいた。
アレンのことだから、そこに疾しい気持ちがないのはわかってんだけど。
頭では理解してても、こうも心は勝手に騒ぐ。
…全然駄目さ。
表面は取り繕っても、まるでオレの心の奥底は変わってない。
やっぱり、そう簡単には消えてくれないらしい。