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科学班の恋【D.Gray-man】

第82章 誰が為に鐘は鳴る



切れ長の目を見開いて目の前を凝視する。
バクの目には、確かに見知った科学班の彼女の顔が映っていた。



「その格好、は…」



しかしバクの知る限り、南は教団では科学班の役職に付いていたはず。
何故エクソシストの団服を身に纏っているのか。
どうにも南のようで南には見えない彼女に、一歩踏み出した。



「…バク支部長」

「あ、ああ?」



どこかやつれた、暗い影を落とす南の顔。
覇気の見られないその顔が、微かに動いてバクを呼ぶ。



「バク、支部長」

「なんだ」



もう一度。



「…っ」

「? どうした、椎名───」

「バクしぶちょぉおー!!!」

「う、おッ!?」



そしてくしゃりと顔が歪んだかと思った途端、全身黒尽くめの体は一直線にバクへと突進した。
勢い余って倒れ込むバクの胴に、羽交い締めするが如く腕を回し強く抱きしめる。



「やっと、人、に!会えたぁああ!」

「な、何を言って!椎名ッ!?う、ぅう腕をはは放せ…!」

「嫌ですぅう!」

「な…!何を…ッお、おい!体を押し付けるな!顔を近付けるな!」

「もぉ、終わりかと…っわた、私、此処で亡者の皆と一生一緒に暮らすんだと…!」

「何を意味のわからないことを言って…っこっちを見るな!近い!顔が近い!」

「ぐす…だって…っ」

「! な、ば、な…!な、泣くな!」



両手と尻餅を付いたバクにしがみ付いたまま、胸に顔を押し付け咽び泣く。
リーバーと同じ常識枠に入る南とは到底思えない行動に、バクは体を硬直させた。



「通信機は、壊れてる、し…!外部っ連絡、取れ、なくて…っ」

「! やはりそうだったのかッ」



しかし嗚咽混じりの南のその言葉を聞いた途端、はっと顔色を変えた。

途中から全く聴こえなくなった、受話器の向こうのビジートーン。
教団の周りには酷い嵐が長く停滞していた。
恐らくその所為で、何かしら通信回線がやられてしまったのだろう。

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