第82章 誰が為に鐘は鳴る
「…南、」
亡霊の言うことは理解できる。
そして南の主張も、リーバーには身に沁みるものだった。
知っているからだ。
同じに大切なものを失くした、耐え難い苦しみは。
目を逸らし続けて、認めず走り続けた葛藤は。
その痛みを和らげたのは、代わりとなる誰かではなかった。
少しずつ、一歩ずつ、長い時間を掛けて乗り越えた。
過去ばかりではなく、今目の前にいる者達に支えられて。
それは成そうと思い得た結果ではない。
気付けば彼女の他に、目が離せない者ができていた。
それだけだ。
「お前は間違ってない。だが正しくもない」
「…?」
「おい。答えになっでないぞ」
「答えなんてある訳ないだろ。そんなもの其処らに転がってたら、生きるのにこんなに苦労しねぇよ」
意味をよく理解できていないのか、丸い目を更に丸くして見上げてくる南の頭に、大きな掌が触れる。
「お前は弱くて、それでいて強い人間だ。南。迷いもするが、自分で道を拓くこともできる」
くしゃりとひと撫で。
優しい手付きは、何かを思い起こさせる。
「それを忘れるな」
薄いグレーの瞳に見守られていると、自然と身に力が入る。
これは、なんなのか。
「……おじさん、だぁれ」
「おじッ……あのな、俺にはリーバーって名前がちゃんとあるんだぞ…」
「…りーばー、さん…?」
「…ぉぅ」
「おい。何照れでるんだ、相手は子供だぞ」
「っ俺はロリコンじゃないぞ!相手が南じゃ歳なんて関係ねぇんだよ、仕方ねぇだろ…!」
「言い訳臭い」
「あのな…!」
「りーばー、さん」
「な、なんだ?」
もそもそと起き上がる小さな体。
リーバーの白衣を羽織ったまま、南は暗い瞳でじっと見上げた。
「りーばーさん、は、おばけじゃない。みなみのこと、わらったりばかにしたり、しないから」
「! わかってくれたか…っ」
ほっと笑顔を浮かべるリーバーに対し、腹部から微かに顔を覗かせる亡霊は口角を引き締めたまま。
「亡霊は人を馬鹿にじだり笑ったりじない。…羨むだけだ」
現世で彷徨い続けるのも、人に取り憑き呪うのも、怨み辛み未練が断ち切れず。
そこには焦がれる思いが在るからだ。