第82章 誰が為に鐘は鳴る
「まぁお前は?体力もあるし実力も根性もあるからな、無自覚でもここまで来れたと思うけどよ。南はお前とは違う。背負ってるもんの背景だってな。心配なら目ぇ掛けてやれよ」
「そりゃ部下だからな。心配くらいする」
「部下、ねぇ…そういうことにしといてやるよ」
「なんだそういうことって」
「そういうことはそういうことだ」
未だくつくつと面白そうに笑うジジには腑に落ちなかったが、これ以上問い掛けても答えを貰えないことはわかっていた。
「それよりそろそろ定時だぜ。心配なら今日くらい早めに上がれって声掛けてきてやりな」
ジジの掌の上で踊らされるのはいけ好かないが、同じ結論はリーバーの中にもあった。
これ以上死んだ顔の南に仕事をさせ続ければ、そのうちハスキン達からも声が掛かるだろう。
タップやジョニーの為に踏ん張っているのを知っているからこそ、周りも南を見守っているのだ。
「南」
「…はい?」
「今日は定時で上がれ。タップとジョニーもそろそろ戻ってくる頃だ」
「でも、まだ…」
「少しはやること残しておかねぇと、あいつらの仕事がなくなるぞ」
歩み寄り声を掛ければ、どんよりと濁った暗い瞳が見上げてくる。
日本人のような暗い瞳だと、覇気の無さは更に深い闇を携えているように見えた。
南が断れないようにやんわりと言葉を選べば、やがて力のない笑みを返される。
「そう、ですね。じゃあお言葉に甘えて、今日は早めに上がらせてもらいます」
力のない笑みでも、なんとなくほっとする。
タイミング良く定時刻を知らせる時計の鐘の音に、あちらこちらでも帰りの身支度を始める者が出始めた。
「早く片付けろよ」
「はい。お疲れ様です、リーバー班長」
「ああ、お疲れさん」
ぺこりと頭を下げてくる南に、軽く片手を挙げて笑いかける。
そうして自身のデスクに戻れば、にやにやと笑うジジが待っていた。
思わず足が止まる、嫌な笑みだ。
「…なんだよ」
「いやぁ。ひっさびさに見た笑顔だと思ってな」
「笑うくらい俺もするぞ」
「違ぇーよ。笑顔の種類だ種類」
「?」
「わかんなけりゃそれでいい。お前、そういうところ不器用そうだもんな」