第1章 蓮の華
夜も更けてきた頃、影がふわりと宙に舞う。
物音ひとつしない夜に彼女は走っていた。
暗い空にぽっかりと満月が浮かんでいる。そのため、足元に不自由はなかった。
険しい山々の道無き道を息ひとつ乱さず登りきる。振りかえってみれば高い山に囲まれて、外界からは隔離された里が眼に映る。
ここは古くから歴史の陰で暗躍してきた忍の隠里、
ーー壬生の里ーー
私が頭領に拾われてから月日を共にしてきた里だ。
そこを今日、私はーーーーーー
ーーーーーーーーーーーー抜ける。
「••••••今迄、ありがとう。••••••••••••さようなら」
抜け忍となるのだ、未練を残す気など毛頭ない。
彼女はまた前をむいて走り出した。