第20章 ➕コーダ
「燁ちゃん」
「徹さんの、音域広いところ見てみたい〜♪」
抑揚もなく歌われ、一瞬眉を寄せるが、及川は差し出されたタブレットを取り女性声でのファルセットが多数取り入れられたアイドルの曲を選ぶ。
それを見るともなしに見て、澤木はピーチハイの果肉をストローでぐさりと貫き口に運ぶ。
「さっきの歌は…自分の家庭をめちゃくちゃにした詐欺師と、詐欺で体さえ奪われそうになった女の子の歌です」
惹かれあってはイケナイ。
恋しても報われない。
――そんなラブストーリーの末路を謳う歌。
「意味、わかりますよね?」
ふわりと桃の香りが鼻をかすめ、耳元で冷えた声がこぼれる。
頷く。
「なら良かった」
上目遣いに彼女は微笑む。