第5章 参
「狐織の、外套についてです。」
あぁ、と内心納得した。
狐織の少し長めの外套には、意味深に白い狐の刺繍が入っている。それに加えて、[こおり]の[こ]の字が[狐]になっているのを知ったら確かに聞きたくもなる。私が谷裂の立場だったら同じように聞くだろう。
「私も詳しくは知らないけどね、どうやら生前の話が関係してるみたいだよ?」
そこまで言うと、谷裂は申し訳なさそうな表情を見せた。
「それは、聞いても良い話なのでしょうか…」
「嗚呼、狐織ちゃん自身が了承してるから問題無いよ。」
「そうですか、なら良かったです」
ほっ、と肩を落とした谷裂を見て優しい子だなあと内心思った。なぜ口に出さないのかと言うと、谷裂に全否定されるからだ。
じゃあ話に移るよ、と一言言い、言葉の通り話を進めた。
「狐織ちゃんは、まだ人間として生きていた頃、多くの神々や妖達と交信して村を仕切っていたお偉いさんだったんだ。
でも、殺されてしまった。濡れ衣を着せられてね。」
まだ少ししか話していないが、谷裂は悲しみに顔を歪めた。亡者には関心が薄い獄卒だが、同僚としての思い入れはあるのだろう。
「そこで、不思議なことが一つ。
狐織ちゃんは、肋角さんに拾われたときにこう言ったんだ。[私は狐の神様に育てられた]ってね。」
そこで、谷裂は顔を上げて問いかけた。
「それはどういう…?」
「ああ、悪いけど狐織ちゃんの狐に関する話はそこまでだよ。人間一人一人についてる倶生神は当時一人だけでね。それに狐織ちゃんも詳しくは記憶に残ってないらしいし。ごめんね。」
「い、いえ!!恐縮です、お時間を頂けただけで嬉しいので…。」
びしっ、と背筋を伸ばして言った谷裂に思わず顔が微笑みを浮かべてしまう。
「ふふ、谷裂は大きくなっても初だねえ」
つい口に出してしまった。遅れてあ、という間抜けな声が零れる。
「そ…それはどういう……ッ。ッ鍛錬が足りないと遠回しに仰っているのですね!!精進します!!」
「ん?いやそういうことじゃ」
「お時間を割いてくださり本当に有難う御座いました!!!!」
腰から背を下へ向けて綺麗に礼をした後、転がっていた金棒を手に取り素振りを始めた。
これはなんと言ってももう聞こえないな、と察した私は「では、失礼するね。」と鍛錬場の出入口へ向かった。
しかし不思議なことだ。彼女はそこまで神に好かれていたのか。
