第5章 参
「…え、災藤さん……?」
我に返ったときには流石に思考がついていかなかった。
半ば無意識だが私は谷裂さんを狙った筈だった。だが目の前には災藤さんがいる。
それに後ろにいる谷裂は傷だらけだ。殺す気で行く、と言ったところまではハッキリ記憶にある。だがここまでやるつもりはなかった。これでは回復に時間がかかってしまう。
それに加えて目の前にいる八つ裂きにされた災藤だ。ロングコートの軍服もズタズタだ。正直訳がわからない。
それに似合わない笑顔で、災藤が返す。
「また派手にやったねえ。それに威力も以前手合わせしたときよりも増してないかい?」
「…普通の手合わせの際に言われれば嬉しいお言葉ですが、…申し訳ありません。私の手違いで斬ってしまって」
相手に向かって深々と頭を下げた。
災藤さんは肋角さんの補佐、つまり獄卒の中でのNo.2だ。申し訳ないという言葉ではとても足りないことをしてしまった。
謝る私の姿を見て、災藤さんは軽く笑いながら手を胸の前で小さく振った。
「別にいいさ、抵抗しなかった私も悪い。お互い様ってことで、丸く収めよう。」
「……恐れ入ります。あと谷裂さんも、すみませんでした。」
改めて谷裂の方を向いて、先程と同じように深々と頭を下げて謝る。
「俺の実力が足りなかっただけだ。次こそはお前に勝つ。」
フン、と鼻をならして言った。
相変わらず負けず嫌いだね、と言った災藤は、思い出したかのように言葉を発した。
「そうそう、肋角さんが狐織ちゃんに用があるって。いつも通り執務室にいるから、向かった方が良いと思うよ。」
「わかりました。態々ありがとうございます。」
内心申し訳ない気持ちでいっぱいだが、本人が良いと言っているのだから、これ以上うだうだ謝っても仕方ない。それに謝ったところで谷裂さんと災藤さんの傷が治るわけでもない。
鍛錬場の出入口の前にきて、お先に失礼致します。と一言言い、言われたとおり肋角さんのいる執務室へと向かった。
*
元から小柄な背中が更に小さくなって行くのを見つめながら、谷裂がこちらへ向き直った。
「災藤さん、少しお時間宜しいでしょうか。」
「ん?別にいいけど…、その体では鍛錬は厳しいと思うよ?」
「…いえ、鍛錬では無くて、少しお聞きしたい事があるのですが…」
少し気まずそうに後頭部を掻きながら言った。
「そうか。何を聞きたいんだい?」
