第10章 天然
***
忙しく働いているうちに、時間はあっという間に過ぎる。慣れない仕事がたくさんあるけど、今日は秀星くんが連絡をくれるかもしれないと思うと、仕事をこなすスピードも自然と上がった。昼休みも、昼食と最低限の休憩だけをとって、あとは仕事に費やした。我ながら、現金なものだと思う。
定時を少し過ぎた頃、秀星くんからメールが届いた。
『悠里ちゃんへ
お疲れ~。
俺は、今日はこれで上がり
緊急招集でもかからない限り、今日はフリー!
悠里ちゃんは?俺は部屋にいるけど、どうする?』
端末を操作して返信しようとしたところで、やっぱり止めた。こんな端末を操作するなら、少しでも早く秀星くんのところに行きたい。私は、デスクの上を最低限片付けて、チョコレートが入った箱を手にして、執行官宿舎へと急いだ。
秀星くんの部屋の前に着くころには、走ったわけでもないのに私の息は少しはずんでいた。入り口の前に立って、呼び鈴を押す。ほんの3日前にもこうして呼び鈴を鳴らしたはずなのに、どうしてだろう。それが数か月も前のことのように思えた。そんなことを考えていると、秀星くんが出てきた。
「いらっしゃい、悠里ちゃん。」
仕事が終わって、シャワーもまだだからだろう、3日前と違ってスタイリングされた髪。スタイリングされてない髪型も、結構可愛くて好きだったな、なんて、本人に言ったら喜ぶかどうか微妙なことを考えていた。でも、今日の秀星くんは、ニットでできた水色の上着に、くるぶし丈のズボンと、キッチュな部屋着。似合う、似合わないがハッキリ分かれそうな服だけど、秀星くんにはとっても似合ってる。
「……悠里ちゃん?」
秀星くんをじっと見ていたら、軽く顔を覗き込まれてしまった。
「ううん、何でもない。それより、これ。メールしてた天然モノのチョコレート。」
ついつい緩みそうになる口元だけど、そこは出さないようにして。