第10章 天然
「昨日はどうもありがとう!」
管財課オフィスに出勤するやいなや、山田さんに声を掛けられた。
「月島さんのお蔭で、昨日は間に合ったし、諸先輩方といろいろ有意義なお話ができたよ。これ、良かったら貰ってよ。昨日いただいたものなんだが、中身は天然モノのチョコレートらしいよ。すぐにできる埋め合わせは、こんなものしかないけど、いいかな?」
そう言って山田さんは、私の両手に乗るぐらいの、小さな箱を手渡してきた。
「ご丁寧にありがとうございます。天然モノのチョコレートなんて、すごく貴重な品じゃないですか?むしろ、こんな高級なものをいただいてしまって、いいのでしょうか?」
このご時世、天然モノの食品が出回ることは少ない。そもそも、取り扱っている店が少ないし、品数も決して多くない。野菜ならまだ出回っているのを見たことがあるが、天然モノのチョコレートなんて、見たこともない。
「あぁ、もちろん。これからもよろしく頼むよ。」
「ありがとうございます!」
お礼を言ってすぐに、私の頭の中には、秀星くんの顔が浮かんだ。プリンを作って食べようとしていたり、メープルシロップをホットケーキに掛けていたりした辺り、きっと甘いものは嫌いじゃないはず。もしかしたら、チョコレートだって、嫌いじゃないかもしれない。だったら、昨日のお礼と、朝ご飯のお礼に、プレゼントしてみようかな。あ、でも、天然というぐらいなんだから、日持ちはしないのかもしれない。天然モノのチョコレートのことはよく分からないけど。箱には常温保存可の文字があったけど、賞味期限の記載が無かった。天然モノの食材は傷みやすいって聞いたことがあるし、急いで食べなきゃいけないかもしれない。お昼休みにでも、秀星くんに連絡してみよう。