第59章 罪 後編
秀星くんは、明らかに別のことを考えている。それで秀星くんは、私を少し離した。私は、もっともっと、秀星くんに触れていたい。躰もそうだけど、秀星くんが何を感じて、何を考えているのかとかも、もっと知りたいと思う。秀星くんは、あんまりそういうのを、私に見せてはくれない。でも、私は彼の本音が知りたい。
「あぁ……、なんで、俺、こんな……。」
「うん、うん?」
秀星くんは、独り言(ご)つように言いかけて、やはり続きは口にしなかった。そして、静寂に包まれるこの部屋。
何となくだけれど、秀星くんは、自分を責めている気がする。時々、秀星くんは自分を卑下したような言い回しをすることがある。それに秀星くんは、この社会に対する不満とか、不条理みたいなことも、時々思い出したみたいに、口にする。いつだったか、秀星くんは、この社会にうんざりしていて、イライラしている、みたいなことを言っていた。本当は、彼の中には、常に社会や自分に対する不満があって、鬱積(うっせき)がたまっていて、それが、いつも彼の精神を蝕(むしば)んでいるのではないか――――そんな気がするのだ。もしそうであるのならば、秀星くんの心は、いつもズタズタなんじゃないだろうか。秀星くんは、『執行官』の仕事は楽しんでいると語ってくれる。実際、職場の話をする秀星くんの顔は、いつも笑顔だ。それに嘘は無いと思う。ドミネーターを撃つのでさえ、嫌いじゃない―――――そう話してくれたこともある。それでも、『潜在犯』である自分のことを、果たして秀星くんはどう受け容(い)れているのだろうか。―――――いや、「受け容れ」てなんて、いないかもしれない。物心がついた時から『潜在犯』―――――これは、彼の心に、何をもたらしたのか。それは、きっと私なんかじゃ計り知れないことだ。
そんな秀星くんに、私はどう、言葉を掛ければいいのだろうか。
「ねぇ、秀星くん――――――――」
「……、ごめん。」
「―――――――……ぇ……?」