第58章 罪 前編
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「あ、これこれ!このキャラ、最近ネットのコミュフィールドで、いつも上位にランクインしてるらしいね~!まぁ、私はあんまり、こういうの詳しくないんだけどさ。秀星くんは?こういうキャラとか、好き?」
「え?あ、あぁ……。俺はそーゆーの、あんまり詳しくねーけど……。まぁ、見た目ぷよぷよしてるし、触り心地は良さそうだよな。」
突然話題を振られ、焦った。「好き?」と訊かれる前に、何やら楽しそうに話していた気がするが、俺は完全に別のことを考えていた。上の空、というワケだった。
「あ……、そっか……。でも、この間ゲームにもなったし、いろいろタイアップしてるよ?最近だと、このメーカーの商品を買うとポイントが溜まって、景品がもらえるキャンペーンとかやってるし……。実はちょっと、私も集めてたりして……。」
「ふぅ~ん……。」
俺は、特に興味が無さそうに答えた。実際に、興味は湧かなかった。それでも、悠里ちゃんは気にせず話をしてくる。
「ホラ、これ!お部屋をこの子でいっぱいにできるホロデータが貰える!!」
悠里ちゃんは興奮しながら、自分の端末を俺の顔に近づけてきた。端末には、ホロを展開させたときのイメージ画像と、『ぷよねこ』なるキャラクターの紹介が掲載されていた。どうやら、悠里ちゃんご執心のキャラクターは、『ぷよねこ』という名前らしい。
「カワイイでしょ?」
悠里ちゃんは、俺にぐいっと近寄ったかと思うと、嬉しそうに笑い声を転がした。
その仕草に、自らの内にある衝動が蠢(うごめ)いたのを感じた。「ドキッとした」等と表現するには少しばかり暴力的な衝動が、俺の中で動いた。
「秀星くん?」
悠里ちゃんの声に引き戻されるようにして、俺は今度こそ悠里ちゃんと目を合わせて返事をした。
「あ、あぁ。『ぷよねこ』ね。覚えとくよ。」
「うん?うん……。」
俺がどことなく上の空であることが、悠里ちゃんにも勘付かれてしまっただろうか?
「……。」
悠里ちゃんは、それっきり黙ってしまった。別に、怒った様子ではないところを見ると、様子見をしようぐらいに思っているのかもしれない。