第55章 ラヴァーズ・パニック Ⅲ
潜入捜査3日目。引き続き、『ラブ・ラビリンス』へ潜入を試みる。とは言え、この日の前日は、緊急出動があったために、1日空いての潜入捜査となった。
初日と同様、適当に飲み物を注文したところで、怪しげな出し物の時間がやって来た。
「皆々様、お楽しみのところ、お騒がせ致します。ここで恒例、イベントのお時間です。」
既視感を覚えるほどの、定型文。抑揚の付け方までもが同じだった。縢は、この声を聞いただけで、既にうんざりした。
「本日は『奇跡の歌声』、ツイン・エンジェルさんによるダンスステージです!今回は、新曲を引っ提げての再登場です!その刺激的な歌詞に、我々の情欲も燃え上がりそうですね!それでは、どうぞ!!」
~~♪~~~♪~~~~~♪
激しい、ロック調の前奏が、辺りに響く。主旋律を奏でているのは、エレキギターだろうか。恐らく使用している音源は生の楽器ではなくて、ソフトを使った合成音だろう。音楽はさほど詳しくない縢だが、頭の片隅で、そんなことを考えていた。いや、縢としても、そんなどうでもいいことのひとつでも考えていなければ、今も押し寄せてくる不安を、逸らすことすらできない。
「~~~~♪~~~~~♪~~~~~♪
Ah~ このまま2人で フォーリンLove☆
激しくイって逝って~~~♪Yeahhhhhh!
八百万(やおよろず)の神よ、マーラ神よ!
我らが肉欲を解き放ち給え!
解脱(げだつ)☆Fucking!解脱☆Fuchking!
浮世の波間に小波(さざなみ)立つぅ~~~!
俺の●●【※規制】も 勃つ――――――!!!」
「………………………………。」
「………………………………。」
ここにいるのは、今まで様々な事件に関わり、凄惨な現場だって何度も目の当たりにしてきた執行官である狡噛と、縢だ。そんな2人が、ただ歌いながら登場してきただけの歌い手に、呆気に取られている。
登場してきたのは、前回同様、ほぼ服を身に着けていない男だった。前回と違い、辛うじてパンツのようなものは履いていたのが救いだったが、今回はユニットだったらしく、むさくるしい男が2人もステージに立った。しかも、パンツも妙にぴちぴちとした、明らかにサイズの合っていないもので、男たちが動くたびに、縢はヒヤリとした。狡噛に目をやると、何とか平静を保っているが、明らかに口が半開きだった。