第49章 御伽話 Ⅴ
幸いにも、この手の映像は『この社会』において、一般的とはかけ離れたものだ。ネットだって厳しく情報規制されている。一般人が何らかの手段で海外のサーバーを経由して、海外サイトなり違法サイトへアクセスできたところで、運良く殺人動画にありつける可能性は極めて低い。というより、『健康な市民』が自らのサイコ=パスを危険にさらしてまで、海外サイトまでアクセスする可能性は限りなくゼロだ。だから、来園者たちの多くは、大型モニターに流れる映像が、どのようなものなのかすら、全く理解が及んでいない。アトラクションの演出関連だと思っている来園者すらいる。だが――――――――
「ひ、人殺しの映像なのか―――――!?」
「きゃああああああああああ!!」
流石に、数分以上も映像が流れされ続けていれば、勘の良い来園者から、その異常性に気付いていく。――――――この動画は何の演出でもない、単なる殺人映像だと。
不安は一気に拡散する。園内の至る所で、来園者のストレスは一気に上昇し、あっという間にサイコハザードのレベルにまで到達した。
「あぁ……、喉が渇いたわ……。それに、もう疲れたわ……。アイスコーヒー……が、いいかしら……。」
サイコハザードに見舞われた園内で、朝倉はもはや何も考えられなかった。おぼつかない足取りで、朝倉はひたひたと歩きはじめた。先程コーヒーを飲んでいた簡易の休憩所を目指して。