第45章 御伽話 Ⅰ
走行する黒い犬小屋。もはや縢たち執行官にとっては馴染みに馴染んでいる空間、護送車。今日は一係全員に出動要請がかかり、監視官の宜野座の他、執行官4名がこうして現場に急行している。
「それにしても、今回は遊園地ッスね~!俺、行ったこと無いから、今から楽しみッスわ~!」
「遊びに行くんじゃないのよ。」
いつも通りに軽口を叩く縢に、それをたしなめる六合塚。
「わかってるって、クニっち。でもさ、こんなことでもなけりゃ、首輪の付いた俺たちが遊園地なんて行けねーじゃん?しかも今回は、かの有名なテーマパーク、『フェアリー☆ランド』じゃん!俺、行ってみたかったんスよね~!」
縢は、ひとりではしゃいでいる。六合塚もその他執行官メンバーも、縢に対してそれ以上突っ込むことはしない。
「貴様は馬鹿か。仕事だと言っているだろう。今からでも更生施設に戻るか、縢。」
冷ややかな声が、通信を通して護送車内の執行官座席スペースに響く。
「じょーだん!んで?今日はまた、何があったんスか?」
「フン。それを今から説明してもらう。……唐之杜。」
『ハイハーイ。こちら分析室。モニターを見てもらえる?目的地に着くまでに、手早くパパッと説明するわね。』
執行官座席スペースに備え付けられたスピーカーから、唐之杜の声が響く。それと同時にモニターに東京都の拡大地図が映し出された。
『今日、皆がお仕事する場所は、ココ。』
東京都の拡大地図がさらに部分的に拡大され、公安局のある新千代田区からみて南西に位置する場所が映し出された。
「目黒区だな。」
狡噛が、短く呟く。
『もう聞いてると思うけど、今回は目黒区にある官営テーマパーク、『フェアリー☆ランド』が目的地なの。』
「オイオイ、お国が運営しているシビュラ推奨の遊園地で何があったってんだ?」
征陸が、溜め息を吐きながら、モニターへと目線をやる。
『人が死んだのよ。』
「あぁ!?」
征陸が、驚きの声をあげる。無理もない。シビュラ「公認」どころか、シビュラ「推奨」の、「健康」な官営施設で、死人が出て公安局が呼ばれるということなど、前代未聞だ。