第37章 願い
春になった。
いつの間にか、寒い冬が過ぎ去って、すっかり暖かくなった。
お互いの都合が許す限り、私は変わらず、秀星くんのお部屋にお邪魔し続けている。もちろん、「触れ合う」ことも無い。一緒にご飯を食べて、他愛もない話をして、適当な時間になれば、お開き。それを繰り返すだけ。もう、秋や冬にしていたみたいに私に手を伸ばしかけてやめる、みたいなことも無い。でも、今やそれが当たり前になってるから、それで深く考えることもなくなった。それに、秀星くんは、何も変わらず私に笑顔を向けてくれている。「料理」を振る舞い続けてくれている。そこには、確かに愛情を感じるから、それは私にとって幸せなこと……うん、そう。秀星くんといられるだけで、私は幸せ。
4月になったことで、私が今いる職場でも、人事異動が発表された。私は、エリートとして厚生省に入庁したわけではないから、今期いっぱいで転勤になってもおかしくなかったけれど、継続して管財課で働けることになった。半年過ごさせてもらって、やっと慣れてきたところで転勤というのは私としても負担というのもあるけれど、それを抜きにしたって有り難い話だった。もしかしたら、山田さん辺りが、うまいこと都合をつけてくれたのかもしれない。これで、私が転勤になってしまえば、管財課オフィスはおろか、厚生省刑事課に出入りすることすらできなくなってしまう。秀星くんに会えなくなってしまう。そんなの、絶対に嫌だ。