第35章 『猟犬』 Ⅴ
手塚にネイルガンなんて送り付けた人間は、一体どんな奴なのか?自らも危険を冒してまで、ネイルガンを製作ないし入手して、無償でそれを送り付けるその行動の意味が、全く分からない。そいつも、もしかしたら公安局に恨みでもあるのかもしれない。でも、自分で行動はできないから、手塚に送り付けた、とか?――――――分かんねぇな。あと、街頭スキャナの件は、一体どういうカラクリだったんだ?口を開こうとしたら、とっつぁんが先に口を開いた。
「まぁ、あとは元気になってからだ。んじゃ、俺はもう帰るわ。」
「あたしも。明日があるし。」
「うん、ありがと。とっつぁん、クニっち!」
短く礼を言って、2人の背中を見送った。
「……。」
病室は再び、静寂に包まれる。そう言えば、さっき開こうとして躊躇ってしまったメール。件名は『秀星くんへ』。これだけで、差出人が分かる。
『秀星くんへ
今日、先生から聞きました。
秀星くんが怪我で入院してるって……。
ひどい怪我だって聞いて、居ても立ってもいられない気持ちで、メールしました。
お見舞いは、ダメらしいから、せめてメールだけでも、って……。
迷惑だったらごめんなさい。
早くよくなりますように。返信は要らないから、ゆっくり休んでください。
また秀星くんの元気な顔が見たいです。』
「……っ」
文面を見ただけで、悠里ちゃんの心配そうな顔が浮かんでしまう。別に、俺が悠里ちゃんに何かしたわけでもないのに、どうしようもない罪悪感。でも、どこかしら嬉しく思ってしまう俺も、心のどこかに存在していて。俺だって、早く悠里ちゃんの顔が見たい。それに……できることなら、悠里ちゃんを抱きしめて、キスをして、押し倒して、メチャクチャにしたい。でも、それは叶わない望みだ。俺はいつ死ぬかも分からない身だ。それは、今こうして痛む体が、それを雄弁に物語っている。
きっと、俺はこれ以上悠里ちゃんに触れたら、止まれなくなってしまう。それは、駄目だ。まぁ、『犬』が『人間』に恋をすること自体が、そもそも滑稽なのだ。あり得ない話なのだ。
自嘲しながら、指先でデバイスのホロキーボードを操作する。