第35章 『猟犬』 Ⅴ
「――――――ってて……。クソ……。」
俺は、痛みでその場にうずくまった。これだけの怪我をして、血を流しているのだ。今まで立てていた方が不思議なぐらいなのだが。
『―――て!――――して!!――返事して!!!慎也くん!?シュウくん!?』
センセーの必死の叫びが、突如として執行官デバイスから流れてきた。執行官デバイスを介しての通信。どうやら、通信が復旧したらしい。恐らく、異変に気付いたセンセーが、電波中継装置を搭載しているドローンを緊急配備でもしたのだろう。それが、今になって機能できたといったところか。
「手塚正志と重要参考人7名を制圧した。すぐに応援を頼む。」
「――――センセー……!俺もコウちゃんも生きてるよ~。……ただ、両方とも怪我してるから、ヘルプ来てくれると嬉しいんだけど……。」
『無事だったのね!いま、宜野座監視官と征陸さん、弥生がそっちに急行してるわ。もう数分もしないうちに着くはずよ。2係の面々も、全力でそっちに向かっているわ。』
「助かる。」
そうこう言っているうちに、執行官護送車が現れ、車内からギノさんととっつぁん、クニっちが出てきた。
「狡噛!縢!大丈夫か!」
流石のギノさんも、焦ったらしい。血相を変えて、こちらに走ってきた。その後ろに、遅れながらとっつぁんとクニっち。
「あーあー、これまた、派手にやらかしたな~?お前らもボロボロじゃないか。だがまぁ、その程度で済んで良かったな。ったく、あんまり年寄りを心配させるもんじゃあないぞ。」
とっつぁんは、周囲を見回しながら苦笑した。
「全部志恩に聞いたわ。突然、アンタたち2人の反応がキャッチできなくなったって。」
クニっちは冷静に言葉を紡ぎながらも、少し呼吸が乱れている。心配してくれていたのだと思う。
「ごめんって。でも……」
「もういい。喋るな。狡噛、縢、お前らが逃亡したわけではないことは既に証明されている。それに、その怪我ではもう動けないだろう。使えない『犬』は、一刻も早く『檻』に戻れ。現場の処理と、残りの捜査は、俺たちと2係で引き継ぐ。」
コウちゃんと俺の無事を確認して、落ち着いたらしいギノさんは、いつも通りの物言いに戻っていた。