第3章 涙
「アンタも大変だな。」
不意に声を掛けられた。狡噛さんだ。
「え?あぁ、この訓練用ドローンは、運搬用ドローンに運んでもらうから大丈夫ですよ。私は書類作成業務や報告だけですから。」
「そういう意味じゃない。こんな『猟犬』のウロつく刑事課まで仕事に来るなんて、ご苦労なことだと思っただけだよ。」
狡噛さんは、床の隅に転がっていた煙草を拾い上げ、排気ファンの真下まで移動すると、適当に壁にもたれて、煙草に火をつけた。狡噛さんが息を吐くと、それに合わせて煙が吐き出される。吐き出された煙はしかし、ファンに絡めとられていく。微かに、煙の臭いがしたが、別にむせそうなほどでもない。
「お気遣いありがとうございます。えっと……」
……。次の言葉が思い浮かばない。2週間前にかがりさんのことがあったから、余計に。私が言葉を発することで、もしかしたら私の意図しない形で、相手を不快にさせることがあるかもしれない。できることなら、同じ失敗は繰り返したくない。他人を傷つける可能性があるなら、尚更のことだ。だから、巧い言葉を―――――嫌な言い方をすれば、当たり障りのない言葉を探す。こんな基準で言葉を探している自分を自覚することは、何だか自分の汚い部分を見ているようで、苦しくなる。その苦しさには気付かないフリをして言葉を探そうにも、何を基準に探していいかも分からないのが本音だ。『執行官』と呼ばれる人と会話をするのは、まだこれで2回目。経験が浅すぎて、どうしようもない。だからと言って、「それでは仕事が終わったので私は出ていきますさようなら」という態度を取ることも違うような気がするし、嫌だ。そんなことはしたくない。