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シャングリラ  【サイコパスR18】

第31章 『猟犬』 Ⅰ


 窓一つない無機質の空間、狭い箱。走行移動する黒い犬小屋。ディスプレイも、今は何も映し出されておらず、画面は黒一色。執行官護送車―――――俺は何度乗っても、この空間が好きになれない。隔離施設を彷彿とさせるこの無機質で狭苦しい空間。いくら空調が効いていたとしても、いるだけで息が詰まりそうだ。横にいるコウちゃんに何か話しかけて、気のひとつでも紛らわせようか、なんて思った瞬間に、ギノさんの声が響いた。
『遅くなったが、今から事件の概要を説明する。今回は、唐之杜にも全面的にバックアップしてもらう。唐之杜、頼む。』
 無論、監視官が乗っている運転席と、執行官の座席部分は扉で隔てられており、直接のやり取りは不可能。だから、センセー同様、今はギノさんとも各種通信でのやり取りになる。センセーはともかくとして、仮にも同じ車内にいる人間と、わざわざ通信でやりとりするのも妙な話だなと、そんなことが頭をよぎった。それは、監視官と執行官の身分差がもたらすものなのか、或いは『健康な市民』と『潜在犯』の壁がもたらすものなのか。俺には分からない。別に、今更どうということでもないが。
『ハイハ~イ。突然の出動命令だったから、ビックリしたと思うけど、今から監視官と一緒に事件の概要と作戦を説明するわね。』
 今まで何も映し出されていなかった備え付けのディスプレイに、東京都の地図が映し出された。そこから範囲が絞られていき、映し出されたのは港区周辺。昔は栄えていたらしいが、今はほとんど水没しているだけの廃棄区画だ。どうやら、今回も廃棄区画絡みらしい。
『今から一係の皆に向かってもらうのは、新橋の辺り。ご存知の通り、港区はほとんどが水没しているだけの廃棄区画。』
「そんな所に何があるんスか?何かあったわけ?」
 思った疑問を、そのまま口に出す。
『何かあったからこそ、こうして我々が出動しているんだろう。』
「うぃ~、すんませ~ん。」
 ギノさんの鋭い一撃が飛ぶ。まぁ、このぐらい慣れている。他の執行官だって、誰一人として意に介している様子もない。
『それを今から説明するわね。ディスプレイを見て頂戴。』
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