第26章 クリスマスの白
「ん~、お待たせ~……って、今日は悠里ちゃん、先に済ませてたな。」
「うん。」
秀星くんが、シャワールームから出てきた。もう、髪は乾いてて、私がぐしゃぐしゃにした髪は、さらりと下りていた。私の視線に気づいたらしい秀星くんが、私が腰かけているソファの空きスペースに、腰掛けてきた。何だろう。秀星くんは、私の横に座った割には、しばらくたっても何も話し掛けてこない。
「……、どうしたの?」
「……、いや、何も……。」
会話が途切れて、沈黙が流れる。でも、これといって気まずい空気でもない。そのまま、どちらも口を開くことなく、多分、数分ぐらい経ったと思う。先に口を開いたのは、秀星くんだった。
「……悠里ちゃんは、さ、」
ぽつりと空中に零れ出た言葉。
「うん。」
相槌を打たなければ、そのまま零れ落ちてしまいそうだったから、私も声を出す。
「俺と……、『潜在犯』と一緒にいて、さ……。今更だけどさ……、何かこう……、触られたりとかも、すんじゃん?」
「……?」
私は、秀星くんに視線を向ける。秀星くんは、無表情のまま、言葉を紡ぎ続ける。
「嫌だとか、思ったこと、無いの?」
「無い。」
考えるよりも先に、私の口が動いていた。自分でも驚くぐらいに、ハッキリと響いた私の声。秀星くんは、小さく「そっか」と呟いたかと思うと、私の方に腕を回すと同時に、頬にキスしてきた。
「な~んて、冗談!さっきの仕返し!ビックリした?」
いつもの陽気なトーン。今のは、冗談じゃない。冗談なんかのはずがない。だから、私の頭の中に浮かんだ、「秀星くんこそ、隠し事できないね」なんて言葉は、そのまま言葉にして口から出すことができなかった。だからせめて、私も楽しい冗談で返そう。
「……そんな冗談言うんだったら、今夜は秀星くんから私に触るの、全面禁止にします!破ったら狡噛さんに言いつけて、秀星くんをスパーリングの相手にしてもらえるように懇願します!」
「ちょ!!悠里ちゃんマジ鬼畜!!」
秀星くんは、半ば本気で焦っている。
「イイエ。同時に、唐之杜先生にも治療協力をお願いするので大丈夫!」
「うっわ!全然笑えねェ!コウちゃんもセンセーも喜んで協力しそうだから、シャレになんねーって!」
どうやら、私の冗談は、スパイシー過ぎたらしい。
「……、じゃあさ、秀星くん。」